著者・編者略歴

おの・よしろう…京都工芸繊維大学大学院工芸科学研究科教授.同大学副学長.

内容

春の京都にあふれるソメイヨシノ、嵐山の春秋を彩る桜と紅葉、御堂筋を金色に染める銀杏並木、瀬戸内の島々を見晴らす雄大な眺め、日本のアルプスとうたわれた滋賀のはげ山――。
これらはいずれも近代につくられ、あるいは発見された風景だ。その背後には風景を編集し、物語を紡ぎ、観光地を生み出す近代的な仕組みがある。荒廃した森林の施業、都市計画の実現、国立公園の設置など、行政はさまざまな要請から風景の編集を企図する。その周辺には風景に価値付けする学者たち、郷土を愛する地域の住民、風景で利益を得ようとする観光業者などがいる。風景に関わる人々はじつに多様だ。誰が風景を編集するのか、そして風景は誰のものか?

★★★編集からのひとこと★★★
大学入学とともに京都に移り住んだのはもう四半世紀前。洛北の住宅街を流れる琵琶湖疏水沿いの桜並木の美しさに心を奪われたのを覚えています。大学の近くの鴨川の桜もまた美しく、やはり平安の都には桜がよく似合うなどと、妙に納得したのでした。しかし本書によると、水際に桜が立ち並ぶ姿はまさに近代の産物だというし、市内に桜が急激に増えるのは意外にも平成に入ってからだそうです。風景は誰かによってつくられ、それにもっともらしい物語が付加される、そういう仕組みに気付かされます。これまで何の疑いも持たず、ただ愛でていた風景の見え方が、ガラリと変わる体験を、ぜひ味わってください。

目次

序論

第一章 京都の桜―古都が桜で埋め尽くされるまで
一 桜はイメージで植えられるのか
二 桜の風景―近世の諸相
三 ソメイヨシノの登場―近代・戦前の京都の桜
四 市内にあふれるソメイヨシノ―戦後京都の桜景観
五 なぜ桜の景観はたちあがったのか

第二章 嵐山の紅葉―吉野の桜か、王朝の紅葉か
一 嵐山の荒廃と再興
二 嵐山の施業における景観形成
三 紅葉の嵐山に編集しなおす―一九六〇年代の転換
四 桜と松の嵐山への再編集―一九八〇年前後における回帰
五 桜・紅葉の共存への再々編集―観光の二一世紀

第三章 御堂筋の銀杏―大大阪計画と街路樹
一 銀杏は大阪のシンボルとなった
二 大阪市都市計画とその背景
三 御堂筋建設
四 御堂筋街路樹の成立

第四章 瀬戸内海の島々―風景の価値創造
一 風景の選定に学者はどれほど関われるのか
二 瀬戸内海国立公園の風景は準備された
三 牛窓亀山公園の「風景開発」
四 笠岡諸島白石島と高島の郷土宣揚策

第五章 滋賀のはげ山―風景の価値転換
一 禿赭地の拡がり
二 史蹟名勝天然紀念物による歴史的価値付け
三 開発される風景

終章 風景と環境を考える

あとがき
掲載図版一覧
索引

紹介媒体

  • 『山と渓谷』No.1068

    2023年9月

    「今月の本棚」

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