内容

神社の境内などで見かける「遥拝所」と刻まれた石碑は、今日の我々の生活のなかではほとんどその意味を失っている。しかしながら、その石碑が建立された背景を探るなかで、この遥拝所碑は一九四五年までの日本人の生活と精神を大きく規制した「遥拝」の歴史を今も我々に伝えるものであることが明らかになっていく。
本書は、遥拝所および遥拝儀礼の歴史をたどる中で、近代における民衆の生活文化と天皇制がどのような関係性を持つに至ったのかを具体的に明らかにすることを試みる。

★★★編集からのひとこと★★★
誰が何のために建てたのかよく分からないシンプルな石碑を、神社で見かけたことはないでしょうか。それが遥拝所碑(の可能性が高い)です。
遠方から対象を拝むための場である遥拝所は、近代天皇制が浸透したことで、庶民のあいだに需要が生まれ、最終的にはシンプルな記念碑の形になります。碑の建立ブームが生まれる過程には、色々な思惑が絡み合った紆余曲折がありました。今はひっそりとたたずむのみの遥拝所(碑)の歴史を、ぜひ繙いてください。各章はおおむね時系列に並んでいますので、1章から順に読んでいただくのがお勧めです。徐々に全容がわかってきて面白いです。ちなみに、帰省した際近所の神社を訪れたところ、まさに本書に出てくる遥拝所碑と同じものがありました。著者の調査地とは遠く離れた土地ですが、ほとんど同じ形式なのは興味深いところです。

目次

第1章 近代の遥拝と遥拝所
第2章 開港地の遥拝所
第3章 明治前期の東京府内の遥拝所
第4章 遥拝所と公園
第5章 開成山遥拝所
第6章 神宮教会と遥拝所
第7章 遥拝所の制度史
第8章 明治天皇の大喪と遥拝儀礼
第9章 遥拝をめぐる事件史
第10章 滋賀県東南部における近代遥拝所
第11章 奈良県下における近代遥拝所
第12章 昭和四年伊勢神宮遷宮とカトリック系学校における遥拝問題
第13章 宮城遥拝

紹介媒体

  • 『日本民俗学』312号

    2022年11月

    村上紀夫

    書評

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