著者・編者略歴

おわき・ひでかず・・・1983年京都府生.2005年佛教大学文学部史学科卒業.2013年佛教大学大学院文学研究科博士後期課程修了,博士(文学).現在、佛教大学総合研究所特別研究員.
〔主要論文〕
「近世「壱人両名」考―身分・職分の分離と二重身分―」(『歴史評論』732号,2011年),「幕末期京糸割符の動向とその終焉―「糸割符」の身分格式と特権―」(『日本史研究』599号,2012年),「近世禁裏御香水役人の実態―地下官人の職務・相続・身分格式―」(『古文書研究』75号、2013年)ほか

内容

 本書では、京都近郊に位置し、公家・寺院領を中心とする相給村落であった山城国乙訓郡石見上里村(現・京都市西京区大原野石見、上里)と、同村百姓にして公家家来でもあり、庄屋・医師・手習師匠としても活動した大島家を研究対象にとりあげる。
 建前と実態という「表裏」の運用により、社会の「穏便」を実現しようとする意識や調整に着目して、近世百姓の変容と実態を多面的に明らかにする。

目次

序 章 本書の研究視角と構成
 第一節 本書の問題関心―「表裏」の運用と「穏便」―
 第二節 研究史の整理と課題
 (1)京都近郊相給村落の研究
 (2)村落状況と百姓の諸活動
 第三節 本書の構成


第Ⅰ部 石見上里村の変容

第一章 相給支配構造と株百姓の実態
 第一節 村落状況と構造の概要
 (1)石高と領主の変遷
 (2)村落の概況
 (3)村落内の重層的構造
 第二節 土地状況の実態
 (1)各所領の分布
 (2)所領の変化と古検高の維持
 (3)生産高と高免の実態
 第三節 百姓の所持地と帰属
 (1)百姓の所持地
 (2)各株内の構造変遷
 (3)屋敷地と百姓帰属の関係
 第四節 株百姓の維持・調整
 (1)株百姓の相続・維持
 (2)二つの宗門改帳とその虚構的処理
 (3)領主観と武辺忌避

第二章 文政期の村方騒動と百姓の壱人両名
 第一節 六右衛門一件の発生とその背景
 (1)村方と忠右衛門(六右衛門)との対立
 (2)「忠右衛門」か、「六右衛門」か
 第二節 「壱人両名」の吟味
 (1)正親町三条家での吟味
 (2)京都町奉行所での吟味
 第三節 百姓の帰属
 (1)六右衛門の暇・改名と相続人
 (2)忠右衛門=六右衛門の結末
 第四節 「壱人両名」の発生理由と意味
 (1)他の百姓の「壱人両名」―作右衛門と安右衛門―
 (2)年貢不納事件と「壱人両名」
 (3)「壱人両名」の意味

第三章 村役人層の変容―「家記」編纂の意識とその社会的背景―
 第一節 安田家と小野家
 (1)「家記」の語る近世初期の状況
 (2)両家関係の実態
 (3)「八御本所様庄や役」
 第二節 元右衛門一件とその後の混乱
 (1)元右衛門一件の発生
 (2)大島家への「疑心」
 (3)元右衛門の出奔理由とその後
 第三節 文政期の村方騒動と庄屋利左衛門の再登場
 (1)六右衛門一件と株庄屋たち
 (2)庄屋利左衛門の再登場
 第四節 過去の回顧と現実
 (1)庄屋「威勢」への批判
 (2)美化される元右衛門像
 (3)渦巻く「庄や之臨」


第Ⅱ部 大島家の変容

第四章 大島家の壱人両名―大島数馬と利左衛門―
 第一節 壱人両名の形成
 (1)石見上里村と安田(大島)家の概要
 (2)安田利左衛門の時代
 (3)「大島数馬」の獲得
 (4)身分分割状況の破綻
 第二節 壱人両名の実態
 (1)「大島数馬」の職務
 (2)大島直方の場合―天明期―
 (3)大島直珍の場合―幕末期―
 第三節 壱人両名の意識
 (1)壱人両名の印形
 (2)記載名義の混乱
 (3)「諸大夫」「常勤」と「耕作等」

第五章 大島家の学芸活用
 第一節 大島家の修学活動と態度
 (1)修学と読書
 (2)文化集団との距離
 第二節 手習師匠の活動
 (1)経営形態の変遷
 (2)入学者と諸行事
 (3)卒業後の手習子供
 第三節 日常と遊芸
 (1)遊芸と交際
 (2)乗馬

第六章 在方医師の活動実態
 第一節 医療活動の背景と展開
 (1)大島家の医学関心
 (2)医師としての活動変遷
 第二節 往診範囲の具体相
 (1)往診範囲
 (2)周辺医師との関係
 第三節 「療用」と「療用之序」の交流
 (1)往診活動の状況
 (2)「療用之序」の交流

第七章 在方医師と村―変死隠蔽事件を事例として―
 第一節 村による変死隠蔽
 (1)事件の発生と隠蔽措置
 (2)直良の立場
 (3)村役人の立場
 第二節 株庄屋家の変死隠蔽
 (1)事件の発生と隠蔽措置
 (2)隠蔽の理由
 第三節 医師の役割
 (1)医師という一側面
 (2)村の中の医師

終 章 まとめと課題

 付 論 大島家の病と地域の医療
 第一節 天明・寛政期における家族の病
 (1)大島家と河奈辺恒斎
 (2)医師の選択―寛政期・亀五郎の病―
 第二節 文政期・継嗣武幸の病
 (1)武幸の眼病と新宮涼庭
 (2)眼病の悪化
 (3)武幸の最期
 第三節 治療と看病―直良の晩年と息子直珍―
 (1)天保10年の罹病
 (2)天保13年の罹病
 (3)嘉永元年の罹病


初出一覧/あとがき/索引

紹介媒体

  • 『日本医史学雑誌』60巻4号

    2014年12月20日

    紹介

  • 『日本歴史』804号

    2015年5月1日

    田中淳一郎(京都府立山城郷土資料館資料課長)

    書評と紹介

  • 『ヒストリア』254号

    2016年2月

    加納亜由子

    書評

  • 『村落社会研究ジャーナル』47号

    2017年10月

    戸石七生(東京大学)

    書評

  • 『社会経済史学』第86巻第1号

    2020年5月25日

    大島真理夫

    書評

関連書籍

  • このエントリーをはてなブックマークに追加