内容

従来、古代史の史料としてのみ使われてきた正倉院文書は、原本が存在し、編纂物ではなく、多種多様な内容をもち、同類の文書・帳簿が多量にあり、筆録者と年月日が特定できるなど、他の古代の国語資料には求められない特質をそなえている。本書は正倉院文書のもつ可能性を引き出すべく具体的な語彙に注目し、文字の形態と語の意義の関係を明らかにし、新語の発生・ゆれ・定着の過程を実証し、語の変遷を考察した意欲作。

目次

序 ―国語資料としての正倉院文書

 第一部 文字と表記の研究

第一章 文字の形と語の識別―「参」の二つの字形―
   はじめに
   一 写経所文書からわかる叅と叁の書き分け
   二 北倉文書・紙背公文での書き分け
   三 木簡による確認
   ま と め

第二章 女性名構成要素「ーメ」の表記
   はじめに
   一 戸籍の「ーメ」表記
   二 木簡の「ーメ」表記
   三 計帳の「ーメ」表記
   四 戸籍・計帳以外の「ーメ」表記七
   考  察

第三章 男性名構成要素「ーマロ」の表記
   はじめに
   一 公的資料
   二 公的資料での「ーマロ」表記
   三 非公的資料での「ーマロ」表記
   四 木簡での「ーマロ」表記
   五 公的資料での「ー麻呂」以外の表記・非公的資料での「ー万呂」以外の表記
   ま と め

第四章 同名異表記(一)―造東大寺司四等官の場合―
   はじめに
   同名異表記の実態と考察
   ま と め

第五章 同名異表記(二)―「ウマカヒ」の場合―
   はじめに
   八人の「ウマカヒ」―表記の実態と考察―
   ま と め

 第二部 語彙の研究

第六章 橡(ツルバミ)について―帳簿の復原と分析の試み―
   はじめに
   一 天平勝宝五年七月の「観音経百巻」の写経
   二 天平勝宝五年二月「善光尼師宣観音経廿一巻」の写経事業
   三 金字・銀字・瑩生の存在
   四 橡・白橡・黄橡・橡墨
   五 色名としての「橡」
   ま と め

第七章 墨の記述―墨頭・墨端と助数詞―
   はじめに
   一 実態の調査
     (1) 資  料
     (2) 語形と記述パターン
     (3) 墨頭・墨端の実態
   二 考  察二一七
     (1) 墨頭から墨端へ
     (2) 頭・端の用法と助数詞
     (3) 墨端と分数表示
     (4) 墨大・墨小の実態
     (5) 墨端の読み
   ま と め

第八章 助数詞「村」の意義と訓について―正倉院文書・木簡による分析―
   はじめに
   一 正倉院文書での「村」
   二 木簡での「村」
   三 「村」の訓みと「臠」
   ま と め

 あとがき
索 引

紹介媒体

  • 奈良新聞 朝刊読書面

    2006年1月22日

  • 日本語の研究(日本語学会) 第2巻3号

    2006年7月1日

    新刊紹介欄

  • 日本史研究706号

    2007年3月1日

    沖森卓也

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