内容

 1830年、19名の船員を乗せて岡山を出航した神力丸は、2カ月あまり太平洋上を漂流したのちフィリピンの無人島に流れ着いた。再び日本の土を踏むことができたのは14名であった。
 彼らの漂流体験は、奉行所や藩でつくられる公式記録にとどまらず、民間でも漂流民から直接話を聞いて記録するなど、さまざまな形で残された。本書では研究篇としてそれらの漂流記録を丁寧に比較検討し、漂流記録の史料的価値についてひとつの試論を示す。さらに記録を通して漂流体験を再現し、漂流民の異国認識や異国交流の実態を探る。史料篇では神力丸漂流事件の典型的な記録を翻刻。

目次

第1部 研究篇

第1章 神力丸漂流記録の研究

 1 神力丸漂流事件の概略
 2 岡山藩の公式記録
   公式記録の作成過程
    岡山藩留方本
    岡山藩江戸留守居本
    長崎奉行所史料の入手
   公式記録の写本による流布
    池田家文庫の写本
    榎氏旧蔵本と竹村氏旧蔵本
    各地に残る江戸留守居本系統の写本
    留方本系統の写本
    岡山藩史料を筆写した家臣たち
 3 幕府関係の記録
   『通航一覧続輯』所収史料について
   『異国漂流奇譚集』所収史料について
   その他の長崎奉行所関係の記録
 4 岡山地域の民間記録
   片山栄蔵関係および岡山城下町での記録
    片山栄蔵手書「漂流日記」
    片山栄蔵関係および岡山城下町での「聞書」
    岡山の実録本
   尻海関係の「聞書」
   福嶋村利八の「聞書」
    守屋坦度筆記「巴旦漂流記」
    山名氏筆記「巴旦漂流記」
 5 讃岐関係の記録
   勝之助の「口書」
    木村黙老自筆本「津田村勝之助漂流記」
    各地に残る勝之助「口書」の写本
    木村黙老が入手した長崎奉行所関係史料
   勝之助の「聞書」
   勝之助関係史料の特徴
 6 能登関係の記録
   金沢藩の清兵衛「口書」
    二系統の「口書」写本
    清兵衛「口書」の特徴
    「口書」に基づく「聞書」
 7 漂流記録の史料学
   漂流記録の分類
    幕府や藩の公式記録
    漂流民自身が著した記録
    第三者が著した記録
   記憶の作られ方
    一次的体験
    共通記憶の形成
    個人的記憶の根強さ
    場によって作られる記憶

第二章 神力丸漂流事件の研究
 1 漂流民の足跡を探る
   潮岬遭難まで
   漂流からボゴス島漂着まで
   破船・ボゴス島漂着
   ボゴス島での出会い
   バタン島にて
   マニラにて
   マカオにて
   広東にて
   乍浦にて
   乍浦から長崎まで
   長崎にて、そして帰郷
 2 漂流記録にみる「異国」「異人」
   現地民との最初の遭遇
   バターン諸島での交流
   言葉のこと
   呂宋マニラのこと
   「クロス」のこと
   漂流記録の地理認識
   続・漂流記録の地理認識
   日本との差異感覚
   漂流記録に見る国家意識
   漂流記録に見る国内の人々の関心
    長崎奉行所の関心
   「聞書」に見る聞き手の関心
おわりに

第二部 史料篇

1 岡山藩留方「留帳」
2 片山栄蔵「漂流日記」
3 利八「巴旦漂流記」
4 勝之助「漂流記聞」
5 勝之助「異国物語」
6 清兵衛「漂流記」
7 実録本「備前難船記」

あとがき

索引(事項・人名)

紹介媒体

  • 日本歴史698号

    2006年7月1日

    春名徹

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