この度、思文閣では「下村良之介展」を開催いたします。
数年前のこと。
宮永理吉先生と語り合うなかで下村良之介先生の名があがり、ふと先生の作品が脳裏に浮かんだ。
時を経た今だからこそ、この時代に強く呼応するのではないか──そうした予感が、本展の原点である。
下村先生とは、亡き両親が交流を持っていた辰天会を通じて出会ったが、その折の情景は忘れようにも忘れられない。
トレードマークの赤い帽子をかぶり、お酒をこよなく愛された先生。
出されたお茶に、さっとポケットから取り出したウイスキーを注ぎ、「チャイコフスキーだよ」とひと言。その自由で洒脱な振る舞いに、何とも言えぬ魅力と不思議さを感じた。
常識や既存の枠組みを軽やかに超えていくそのお姿は、まさに先生が生み出す作品そのもののようであった。
本展が、下村良之介という稀有な存在と、その作品の本質にあらためて向き合う場となり、観る人の心に新たな感動をもたらすことを願ってやまない。
思えば、先生がご存命のうちに直接言葉を交わすことができた者は、弊社では私一人になってしまったようだ。
「また先生の時代がやってきましたよ。」 合掌。
思文閣 田中 大
※辰天会…奈良本辰也先生を中心とした、作家・文人等の交遊の会