三者三様のアンソロジー

(010)季 (百年文庫) (010)季 (百年文庫)
(2010/10/13)
円地文子、島村利正 他

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最近気になっている本があります。
 「百年文庫」
皆様はご存じでしょうか。
ポプラ社が発行しているこの文庫シリーズは、
漢字一字をテーマに三人の作家による作品を集めた短篇集です。
いわゆる日本と海外の文豪による作品が収集されており、
漢字一字で表わされるテーマのもと集められた三者三様の作品世界が楽しめます。
短篇という読みやすいスタイルで編まれているため、
実際に読んだことのない作家がいれば、入門編としても使え、
もし気に入る作品があれば、その後その作家を追いかけ読み拾うことにも繋げていくことができます。


私が読んだのは、「季」という巻です。
円地文子「白梅の女」、島村利正「仙酔島」、井上靖「玉碗記」という三作品が収められています。
「季」ということもあり、それぞれ日本の季節を十分に感じさせる描写と
現在と過去という時間の経過や過去を踏まえた現在という時間描写に特徴があると感じました。
またそれ以上に登場人物たちの心理描写を通して浮き彫りにされる
複雑極まりない「人間の奥深さ」とでもいうべき生々しいものが見え隠れするところは共通しているといえるでしょう。
恥ずかしながら井上氏以外の作者の作品は初めて読みましたが、
井上氏の自伝的小説ともいえる本作の中には常に微熱を帯びた人間への深い思慮が描かれています。
円地、島村両氏の作品もあくまで主人公の内にある心情を客観的に描き、
読者に物語のその後へ思いを巡らせるような短篇ならではの終わり方は心地よい余韻を残します。
* * *
このシリーズは装丁もひと工夫。
カバーは白いバックに漢字一字を大きくあしらったインパクトある装丁、
カバーを外せば一冊一冊異なるという画家・安井寿磨子氏によるオリジナル木版画が現れます。
まさに見るにも楽しい本といえるでしょう。
「この一字を当てるのかぁ」と感心し、音読みをしたり訓読みをしたりしながら
改めてその漢字の意味を考えるきっかけにも。日本語は見るにも美しいことを知りました。
次は「心」を読む予定です。
(2010年10月に50巻刊行、今年10月に100巻を刊行して完結する予定だとか。)
(川村)