没後10年-小倉遊亀を偲んで

もう10年も前のことになります。
夏のまだ蒸し暑い夕刻、
鎌倉を訪れた私の眼に飛び込んできたのは、
色とりどりの絵がほどこされた“ぼんぼり”の列でした。
鎌倉の鶴岡八幡宮では、毎年8月上旬の3日間「ぼんぼり祭り」が行われています。
段葛から八幡宮の境内まで、ずらりと並んだぼんぼりの数は400以上と言われています。
なかには、鎌倉ゆかりの著名人が寄せた作品も多く含まれています。
その年のぼんぼりの列の一番奥の一際目立つ場所におかれていた2体は、
小倉遊亀平山郁夫の作品でした。
その2週間ほど前に、小倉遊亀は105才で亡くなったばかりでした。
当時、日本画家の名前を数えるほどしか知らなかった私が、
遊亀の作品であることがわかったのも、その記事を新聞で読んでいたからでした。
ひょっとしたら絶筆であったかもしれないそのぼんぼりの前で、
ものさびしい気持ちと、ここで出会えてよかったという安堵感のようなものが
入り交じった不思議な感覚になったことを覚えています。
以来、遊亀の作品を目にすると、決まってあの夏の日のことを思い出します。
現在、兵庫県立美術館では
「没後10年 小倉遊亀展-とうとう絵かきになってしまった」が開催されています。
凛とした女性たちや、遊亀が鎌倉のアトリエで描いた
身近にあった素朴で美しい花々や器など、計100点の作品が展示されています。
クレヨンを手に握った幼い少女が、画用紙を片手に何かを描いている
初期の作品「首夏」は、幼い頃の遊亀の姿でしょうか。
幼い頃から絵が大好きだった少女が、ひとりの画家になっていく過程。
小倉遊亀のまっすぐな生き方を、展示された作品から感じ取ることができます。
(西川)