明治の陶聖 板谷波山

この春に入社しました、成木と申します。どうぞよろしくお願いいたします。
先日、「HAZAN」という映画を観ました。

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五十嵐匠

2004-10-23

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この映画は、日本の近代陶芸を開拓し、陶芸家として初めて文化勲章を受章した
板谷波山を主人公とした伝記的映画です。
映画では、彼が石川県工業学校の教職を辞して陶芸家として生きる道を選ぶところから、
有名になりはじめるまでの、たいへん貧しく厳しい生活の様子を描いています。
教師としての安定した生活を捨てて「やきもの屋になる」と決意したとき、
彼には妻と幼い3人の子供がいました。
金沢から東京の田端に窯と住居をつくって引越したときには手元に七十五銭しか
残っておらず、その生活は困窮を極めます。
ようやく初めて窯に火をいれたときは温度を上げるために必要な薪の量を見誤り、
近所を走り回って薪を貰ってもまだ足りず、妻のまるは雨戸を叩き壊して燃料に
してしまいます。
二度目の窯では地震におそわれて作品がほぼ全滅し、このときの売り上げで
支払いをする予定だった借金が重なっていたために、まるは
「傷を隠すように上絵をすれば充分に値打ちがあります」と必死に頼みますが、
波山は中途半端なものは売れないと言い、全てを叩き割ってしまいます。
本当に、壮絶な明治人の生き様を目の当たりにできる美しい映画であると思います。
全編を通して台詞や音楽は少なく、登場人物も沈黙のシーンが多いのですが、
そこから生まれるいいようのない「間」が、それぞれの人の持っている意志の強さを
感じさせます。
特に二度目の窯の失敗のとき、妻には「子供を飢え死にさせるおつもりですか」と
言われるのですが、それでも一切妥協を許さずに無言で作品を打ち砕く波山の姿は、
ある種の「狂気」に近いものさえ感じさせます。
また、それほどの信念をもって作陶にうち込んだ波山を支えた周囲の人物もまた魅力的です。
特に妻のまるは、夫の志を応援したいと思いつつ、幼い子供たちをどうにか食べさせてゆきたい
という葛藤から激しく悩みますが、それでも見事に力強く一家の生活を支える様子が描かれて
います。
また、土の塊から波山の理想の器形を生み出す轆轤師の現田市松、
波山の生活を心配してしばしば田端の家を訪れては「子供たちへの牛肉代」として
無理やりお金を渡していく新納忠之介など、明治から大正時代にかけての人々のもつ
温かい人間関係も見ることができます。
今でこそ偉大な芸術家として名高い板谷波山ですが、その人生にはかくも厳しい時代が
あったのかと思い知らされる作品でした。
単に映画として観ても、大変美しい、日本人の感性を揺さぶる名作であると思います。
まさに「かつて美しき日本人がいた。」というコピーそのままの映画です。
興味のある方は、ぜひ手にとってみてはいかがでしょうか。
(成木)