ベートーベンをぶっとばせ

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去る12月8日はジョン・レノンの三十回忌でした。
かれの属したロックバンド・ビートルズといえば、戦後文化史のなかでも、
影響力でいえば指折りの存在であって、我々にも馴染み深いところですが、
ビートルズときくと、決まって思いだす逸話があります。
初のアメリカ公演のため、降り立った空港での記者会見の場で、こんな質問を受けたそうです。

「ベートーベンをどう思いますか?」


これはおそらく、”Roll over Beethoven(ベートーベンをぶっとばせ)”という曲をカバーしたり、
ベートーベンに対して否定的な発言をしていたことを前提としつつ、
新時代の寵児たる彼らへの、当時の「オトナ」側からのちょっと意地の悪い質問として
投げかけられたものだったのでしょう。
これに対するリンゴ・スターの切返しが秀逸です。
「いいね。好きだよ。とくに彼の詞がね」
この類いの、真面目くさった表情で毒づくジョークを、
英語では「デッド・パン(死んだ鍋)」と形容するそうで、
痛烈な皮肉の利いた風刺的なものであることが多いようですが、リンゴのこれもなかなかのパンチです。
これは、別段ベートーベンの音楽そのものを認めないとかそういうことではなく、
すでに「よきもの」として権威づけられているものへの疑義、
あるいはそうした権威を振りかざす物言いへの反発ということだったのでしょう。
ここでふと、連日報道かまびすしい歌舞伎役者の不祥事を思い起こしたりもいたします。
もちろん、暴力事件としては厳正な捜査および事実究明が必要と思う一方、
ここまで騒々しくなるのはなんなのだろうと。
「伝統」と「格式」ある梨園の貴公子なればこそ、かように取り沙汰されるのであって、
これがたとえば、新派の俳優だったりロックミュージシャンだったらどうでしょう。
どんなに有名な人物でも、こうもセンセーショナルな扱われ方はしないのかもしれません。
歌舞伎役者が傾奇者であってよかったのは遠い昔の話、というのが大方の判断でありましょうか。
でも、おなじく芸術の範疇に含まれるであろうものが、こうも「伝統芸能」とポップカルチャーとに分化して、
かつその二者に確固とした貴賎の差がつけられているのは、なにやら奇妙でもあります。
芸術の形式には流行のあるもので、時代時代でうつろいゆくのが当然ですが、
広く日本美術というものが、「伝統芸能」の枠内におさめられて、
標本のように干からびてしまわないことを祈るばかりです。
(佐藤)