角大師良源

京都の町を歩いていると、時々このようなお札が玄関にはってあるのを見かけることがあります。
角大師画像
(画像は京都市上京区の盧山寺の御札です)
黒い皮膚、やせて骨ばった身体にぐりぐりした眼、頭には角を生やした異様な形相。
なんとも恐ろしい鬼の姿ですが、実はこの鬼、
平安時代に活躍した天台宗の僧侶、元三大師・良源の変身した姿「角大師」として信仰されているものです。
良源は延喜12年(912)、近江に生まれました。
元三大師という名称は正月三日(=元三)に寂したことに由来します。
論議では南都の高僧も打ち負かすほど弁が立つ一方、
天台座主としても、円仁没後の荒廃していた比叡山横川の伽藍の整備や、
僧兵たちの綱紀粛正を積極的に推し進めるなど
経営手腕も抜群という豪胆・辣腕なイメージで広く知られました。
その法力の強さを示す不思議なエピソードがいくつか伝えられています。
そのひとつがこの「角大師」にまつわるものです。
都に疫病がはやった時のこと。疫病神に対し、良源が病魔調伏の加持祈祷を行った際、
僧侶の姿からおそろしい鬼の姿へと変化し、病魔を退散したといわれ、
このときの鬼の姿をうつしたものが魔よけの護符としたとされています。


ところで、良源の僧侶姿の肖像画を見てみると、
くっきりと強い眼差しをたたえる目元、長く垂れ下がる眉毛が印象的な容貌で描かれています。
良源の肖像においてこの「眉毛」という要素は大きな存在であったようです。
「絵の眉毛の部分から実際に長い毛が生えてくる」という伝承を持つ肖像画も現存しており、
また、「寺の小僧が良源の肖像から伸びてきた長い眉毛を抜いてしまい、
罰が当たって気絶してしまった」などといった話も伝わっています。
角大師には、角があたまからというより、こめかみ、つまり眉毛の左右から
生えているように見える作例も確認されています。
これは、良源の特徴のひとつである眉毛が肥大化し、
角というかたちをとってあらわれているのではないかという見方もあるようで、なかなか興味深く思います。
他にも、
「病中の天皇のため祈祷している最中、良源の姿が生身の不動明王に変化した」
「良源は端整な顔立ちであったため、内裏へ招かれた際に女官たちが騒ぎたてた。
 それを退けるために鬼の姿に変じた(鬼の面を被ったとも)」
「生まれ変わって平清盛となった」・・
などの説話が伝わっています。
どうも「変身する」という特性を強く帯びた僧として語られることが多いようで、
三十三の姿に変化して衆生を救う観音菩薩の化身ともいわれ、
良源像のミニチュア像を三十三体祀る「豆大師」という信仰もうまれました。
僧侶の法力のすさまじさを示す説話はさまざまに伝わっていますが、
その中でも良源の異色さはなかなか際立っているように思われます。
現代もなお、比叡山の麓や京都で信仰され続けているその強力なパワーにあやかりたいものです。
(千田)