土方定一『日本の近代美術』をよむ

今読んでいる本のことです。
土方定一『日本の近代美術』(岩波文庫、2010)

日本の近代美術 (岩波文庫) 日本の近代美術 (岩波文庫)
(2010/01/16)
土方 定一

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年明けに岩波文庫版として再版されまして、
それを半年遅れで手に取りましたものの、原著は1966年(昭和41)に出たもの。
その意味では、日本の近代美術評論の“古典”といってもいい書物だろうと思います。


まあ、この本の中味については、まだ私も通読できているわけではありませんし、
書店さんのサイトで目次などご確認いただくとして、
いってみれば半世紀近くも前の出版物なのであって、文学作品でもあればともかく、
いくらかでも研究書の気配をもった書物であれば、
いまさら再版してあらためて世間の目にさらすということにどれほどの意味があるのか、
たまに疑問にならんこともありません。
…が。
どんな分野でもそうなのではないかと思いますが、
時代がくだり研究が進むにしたがって、
専門が細分化して大局的な話がなかなかできにくくなるという傾向があるようで。
そんななか、この著者の特徴というのは、
個々の事象をつねにその外部ないし全体との相関関係において捉えようとする指向と、
それを可能にする博識にあるのでは、などと思ったりしました。
まあ、一部、二項対立的な問題把握だとか、いま現在の感覚からすれば、
やや時代がかった部分がいろいろあるのかなとはおもいますが、
いわゆる“古典”とされる作物を読むときに感じる一種の清々しさといいますか、
視野の広やかになる感じというのは、このあたりに負うところが大きいのかもしれません。
もちろん、読み継がれるに足るだけの含蓄と正確な事実認識、
無理のない論理構成というのは、「古典」たるに必須の条件であって、
当然そのハードルはしっかりとクリアしている評論なわけですが、
それ以上に、我々がこういった“古い”ものに期待するのは、
今の我々にはなかなか持ちえない視野の広さ、懐の深さなのではないでしょうか。
構えた言い方をすれば気宇の壮大さというか。
* * *
昔のひとは偉大だったなあ、というありきたりな感慨でしめくくってしまいそうになるところですが、
もう一言付け加えますと、この本には作家名索引もついていて、ちょっとした美術家事典にもなりそうです。
また、今回の文庫化に際して、いわば実務上の“お弟子さん”にあたるところの酒井忠康氏によって、
詳細な注記と解説もついて、土方氏による美術論そのものだけでなく
現代から見たその議論の位置づけもなんとなく了解できる利点もあったりします。
というわけで、目の前の一点一点を大事にしつつ、
同時に幅広い視野と感性も養っていきたいもの、との思いを新たにした一冊でした。
と、まだ読み終えてもいないうちからこんなことを言うのもどうかというところで、
まずは読了を目指すことといたしまして。
(佐藤)