メモワール.

古屋誠一という写真家をご存じでしょうか?
オーストリアで活躍する、日本の写真家です。
現在、東京都写真美術館では、古屋誠一 メモワール.『愛の復讐、共に離れて…』を開催中です(7月19日まで)。
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「メモワール」は、1989 年から20 年あまりにわたって開催されている展覧会。
その中心には、1985年に精神の病から自ら命を絶った、
古屋さんの妻クリスティーネさんがあります。
クリスティーネさんとの「メモワール」をよみがえらせ、編み直すことで、
「メモワール」の展覧会は20年あまり続いてきました。
「いつか何処かで発表するとか、人に見せるという目的で写真を撮っているのではなく、
日常生活の中で一瞬ひらめきを感じるような場面に出会った時に「ただ」撮る
というのが僕の基本的な写真との関わり方」
と述べる古屋さん。
「メモワール」展の写真も、決して展覧会としてまとめることを意図されていた写真ではなく、
まさに古屋さんの日常の「メモワール」としての写真です。
クリスティーネさんを撮影した膨大な量の写真も、同様です。
しかしだからこそ、古屋さんの写真のなかの人物や植物や、あるいは風景は、
静謐なのに生き生きとしています。
内に秘めた激情、躍動、あるいは不安定さ。
正の感情も負の感情も、いまにも飛び出る寸前の静けさ。
古屋さんの写真の魅力を一言で表現するとすれば、
きっと「嵐の前の静けさ」になるのではないでしょうか。
今回、「メモワール.」と、展覧会名にピリオドが打たれたことには、
この展覧会をひとつの集大成とするという、古屋さんの思いが込められています。
妻の死後、時間と空間を行きつ戻りつして探し求めていた「何か」が、
見つかりはしないという答えがおぼろげにわかってきたという古屋さん。
しかしそれは、この先自らの足を先に進めるために必要な「ピリオド」であったように感じられました。
(岸本)